事業譲渡
Business Transfer
事業を構成する資産・負債・契約等を個別に選択して譲渡する手法。不要な負債を引き継がない柔軟性が特徴。
事業譲渡とは
事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡する取引です。株式取得や合併が会社単位の取引であるのに対し、事業譲渡は個別の資産・負債・契約を選択的に移転できる点が最大の特徴です。
事業譲渡の範囲
「事業」とは、一定の営業目的のために組織化された有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)を指します。具体的には以下が含まれます。
- 有形資産: 設備、在庫、不動産
- 無形資産: 知的財産権、ノウハウ、ブランド
- 契約関係: 取引先契約、賃貸借契約、ライセンス契約
- 人材: 従業員(個別の同意が必要)
- 経済的価値: のれん、顧客リスト、事業上の秘密
法的手続き
- 事業譲渡契約の締結: 譲渡対象の資産・負債の範囲、従業員の処遇、競業避止義務等を規定
- 株主総会の特別決議: 事業の全部または重要な一部の譲渡には特別決議が必要(簡易事業譲渡を除く)
- 個別の移転手続き: 資産の所有権移転登記、契約の名義変更、従業員の転籍同意取得
- 競業避止義務: 会社法上、譲渡会社は同一市区町村と隣接市区町村で20年間同一事業を行うことができない(特約で変更可能)
株式取得との比較
| 項目 | 事業譲渡 | 株式取得 |
|---|---|---|
| 取得対象 | 個別の資産・負債 | 会社の株式 |
| 簿外債務 | 引き継がない選択が可能 | 原則引き継ぐ |
| 許認可 | 再取得が必要 | 維持される |
| のれん償却 | 税務上償却可能(5年) | 不可 |
| 手続き | 個別移転手続きが必要 | SPA1本で完了 |
税務上の取扱い
事業譲渡は個別の資産売買として扱われます。
- 売り手: 譲渡益に対して法人税が課税。消費税の課税取引にもなる(土地・有価証券等は非課税)
- 買い手: 取得した資産を時価で計上。のれん(営業権) として認識された部分は税務上5年で償却可能。この税務メリットは株式取得にはない大きなメリットです。
中小企業M&Aでの活用
中小企業のM&Aでは、事業譲渡が広く活用されています。特に以下のケースで有効です。
- 不要な資産・負債を切り離して必要な事業だけを取得したい場合
- 簿外債務リスクを遮断したい場合
- 複数事業のうち一部のみを取得したい場合
- のれんの税務償却メリットを活用したい場合
留意点
事業譲渡では、取引先との契約を個別に承継する必要があるため、チェンジ・オブ・コントロール条項への対応や、主要取引先からの事前同意取得が実務上重要なポイントとなります。
メリット
- ✓不要な資産・負債を引き継がない柔軟性
- ✓簿外債務リスクを遮断できる
- ✓のれんの税務償却が可能(5年)
- ✓取得対象を自由に選択できる
デメリット
- ✗個別の資産移転手続きが煩雑(契約の巻き直し等)
- ✗許認可の再取得が必要
- ✗従業員の転籍に個別同意が必要
- ✗消費税の課税取引となる
よくある質問(FAQ)
事業譲渡ではのれん償却できる?▼
はい。事業譲渡で生じたのれん(営業権)は税務上5年で均等償却できます。これは株式取得にはない税務メリットであり、中小企業M&Aで事業譲渡が選好される大きな理由の一つです。
従業員は自動的に移る?▼
いいえ。事業譲渡では従業員の転籍に個別同意が必要です(会社分割と異なる)。従業員が転籍を拒否した場合、譲渡会社に残ることになります。
簡易事業譲渡とは?▼
譲渡する資産の帳簿価額が総資産の20%以下の場合、株主総会の特別決議が不要となる制度です。小規模な事業譲渡の場合に手続きを簡素化できます。